日記

40代独男、転落の軌跡

3月29日(月)

◯6時起床、17時退社。

◯仕事中、上司から「今晩、行こうか」と飲みに誘われる。連日のオッサンにラブされる状況に辟易していたが、退勤時に急に誘ういつもの形と違う誘いに同行することにした。

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◯禿げ狸に連れて行かれたのは、いつもの提灯居酒屋ではなく、ハイカラなビアホールでした。「もうひとり来るから」と言われ、それが女の人だと告げられると、自分は少し戸惑いました。それはこれから来る女の人への期待からではなく、この場が一体どういう意図をもって設けられているのか、見当つかなかったのです。禿げ狸と女の人がどういう関係なのか、いくつぐらいの年頃の人なのかを尋ねても、「まぁ、いいから飲みたまえ」と取り合ってくれず、自分もだんだんどうでもよくなって、お酒を飲みました。しかしアルコールを一口、また一口と口に運ぶうち、心の片隅に、禿げ狸は独身の自分にいい人を紹介してくれるつもりなのかもしれない、そんなパンドラの匣の芥子粒ほどの希望が生まれていたことは、恥の多い自分の人生の性癖の一つのように思われます。

◯指定の時間から少し遅れて女の人はやってきました。お若い方でした。コロナ感染対策で着けているマスクの上の目元は、自分の好きなパッチリお目目ではなく、お笑い芸人のオードリー若林みたいな目で、マスクを外すと隣にピンクベストの男がいないことに違和感を覚えるほどのそのそっくりな顔の造作に、にわかに興が覚めました。女の人も、自分と違う目鼻立ちの男は好みではなかったようで、特に盛り上がることもなく、自己紹介をして、席に着きました。

◯この飲み会は、禿げ狸の部下である自分と、謎の関係の若林子(結局最後まで禿げ狸と女の人の関係性はわからないままでした)を交え、楽しく飲もうということで、深い思惑はなかったようでした。自分は、その空気を察し、すぐにいつものお道化のスイッチを入れようとしました。しかし禿げ狸に「どうだ可愛い子だろう」と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。可愛くない人を可愛いだろと聞かれると、とたんに、道化が出来なくなるのでした。嘘をついてはいけない、幼少の頃に大人たちに言われた言葉が、ちらとよぎるのです。と、同時に、人が例え社交の言葉であっても、可愛くない人を可愛いと言う嘘を許す事も出来ませんでした。ブスを、ブスと言えず、また、ブスを可愛いと言う罪を咎めることも出来ず、極めてにがく味あじわい、そうしてここで道化を演じると閻魔様に舌を抜かれてしまうかもしれない恐怖感にもだえるのでした。つまり、自分には、こういうときに応える言葉がなかったのです。これが、これまでの人生において、自分に女友達が出来ない、重大な原因のように思われます。

◯自分が黙って、もじもじしているので、禿げ狸は何を勘違いをしたのか「こいつはこの通り女に対する免疫がなくてな」と笑い、女の人も「あら、まあ」と満更でもない感じに髪を掻き上げるのでした。お道化役者は、完全に落第でした。