ジョン、昨晩の話をする前に、ボクが何故ヤリチンになれないのかという理由を話しておかなくちゃならない。
一番わかりやすい例はAちゃんのイケメン事件かな。
当日大学三年生だったAちゃんは大学に入ったころから付き合っていた彼氏と別れフリーの状態だった。
「当分彼氏はいらない」
なんていっては、ボクとふたりで飲みにいくことが多くなっていたころ、突如Aちゃんの前にイケメンが現れた。
そいつはAちゃんと同い年だけど学年がひとつ下で、Aちゃんの友達の間では評判のイケメンだった。そして友達の情報によると、どうやらAちゃんのことが好きだとか。
イケメンに好意を寄せられ嫌がる女子はいない。
最初興味がなさそうだったAちゃんだったが、友達の後押しもありイケメンと会うことになった。
イケメンと会ったあと「眠いとかいって部屋に来ようとするんですよ。やっぱりイケメンって軽いですね」とAちゃんはイケメンに対して少し否定的な口ぶりだった。でもその顔には笑みがあり、Aちゃんを妹のように可愛がっていたボクは「付き合っちゃえばいいじゃん」と茶化していた。
そんなこんなの翌週、Aちゃんはニコニコしながらバイト先に「差し入れです」とカントリーマームを持ってきて、やはりニコニコしながら帰っていった。
「急になんだしょね?」と普段はとらないAちゃんの行動にボクやバイト先のメンツは首をかしげた。
その答えがわかったのは、そのまた翌週だった。
先週までの笑顔はどこえやら。六月の空みたいに暗い顔をしたAちゃんに「なんかあったの?」と訊くと、灰色の正体はイケメンだった。
ある晩、イケメンからAちゃんに「近くにいて終電がなくなったから泊めて」と連絡がきた。たぶんボクがいってもオーケーしないその願いを、Aちゃんは快諾。駅まで迎えに行き、イケメンを部屋に招き入れた。そして、キャミソールにショートパンツの部屋着姿になったAちゃんをイケメンは裸にし、コンドームなしで貫いた。いつもAちゃんに「ゴムをしない男に愛はない」と口すっぱくいっていたボクの言いつけなんて、イケメンの前では意味がなかったわけだ。
イケメンと一夜を共にした次の日、それが例のカントリーマーム差し入れの日だったわけで、Aちゃんは「イケメンと付き合える」とおもひでぽろぽろ空中平泳ぎ状態だったわけだ。帰れば部屋にイケメンもいるわけだし。
そう、それからイケメンはAちゃんの部屋で寝起きを共にした。もちろんAちゃんは毎晩抱かれた。ゴムなしで。
連日連夜、ゴムなしセックスをしていたある日、付き合えると思っていたイケメンから「片思いの年上の好きな人がいるから付き合えない」といわれる。怒ったAちゃんだったが最後に一発やられ(もちろんゴムなし)、それでも次の日イケメンを追い出した。
とまあ、よくも克明に、知りたくもない世界の秘密を聞かされたボクはヒキガエル状態(ゲロゲロ)だった。
イケメンは初めからAちゃんと付き合うつもりなんてなく、やるのが目的だったわけで、これは想像だが、男仲間の間で「好きだと匂わせるだけで簡単にやれた」とせせら笑っていたことだろう。
それだけでも不快だが、不快なことはそれだけではなかった。
AちゃんもAちゃんで、最初は「付き合えると思っていたのに」と落ち込んでいたが、数日後には「友達が羨ましがるようなイケメンに抱かれた女」として笑うようになった。
イケメンはそうやって何人も女を抱いているんだろう。そしてやられた女は「よい経験」と珍しい蚊にでも刺されたぐらいの感覚なんだろう。
別にボクは抱かれた女に箔をつけられるようなイケメンではない。でもボクは好きじゃないけど、相手がボクに好意を持ってくれているというシュチュエーションは普通の男より多く遭遇してきていると思う。つまり「上手く」口説けばやれるという状態だ。
それでもボクはやらなかった。なぜならボクはクソなイケメン野郎のようになりたくなかったし、「女の価値は何人の男と寝たかで決まる」みたいなクソなショムニ女を生産したくなかったからだ。
自分が本気で好きだと思う女となら、たとえ一夜の関係でも価値があると思う。でも欲望のはけ口で好きではない女とやることに価値はない。
偽物の愛をセックスに利用するのは鬼畜の行為だ。
上手く伝えられたかはわからないけど、これがボクがヤリチンになれない理由なのさ。