余命46年

30代独男、転落の軌跡

高卒男が取引先の女性社員と銀座で飲んだ話

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 ボクは高校卒業後、専門学校に行き、十年以上フリーターをしていた。その後30を越え一念発起、ロクでもない経歴のわりには大卒並みの安定とほどほどの収入を得られる正社員の職に就いた。

 そんなボクが先日、取引先の女と飲むことになった。きっかけは相手方の部長がボクを指し「彼独身?」とうちの部長に訊いたことに始まり、うちの部長が彼女を指し「彼女独身?」と訊いたことで、お互い独身、「ならば名刺交換を」が始まり。

 彼女の名刺にあった仕事用のアドレスに挨拶とプライベート携帯の番号を書いて送ると、彼女も挨拶とプライベート携帯の番号を書いて返信してきた。そこからショートメールで食事の約束をして、ほどなく会うことになった。

 彼女の勤め先はボクの会社以上に超安定、年下の彼女はおそらくボクより高い収入を得ている可能性は高い。

 ボクはそれまでの人生で自分より高学歴の女と飲んだことはあっても、自分より収入を得ている女とふたりで飲んだことはなかった。

 まあ、大丈夫だろうと思っていたが、高学歴、高収入、ルックス平均以上の相手を前に、ボクは思わぬ萎縮をすることになる。

 待ち合わせは銀座。彼女の職場から近く、彼女が指定してきた。ボクは知り合いが内装を手がけたイタリアンの店を予約しようとしたが、満席でダメ。当日の待ち合わせ時間ギリギリまで店を決めかねていた。

 すると彼女から「少し遅くなります」の連絡。いつになるかわからないことを口実に「会ったら店を決めましょう」となんとか店選びの重責から解放された。

 予定より30分遅れで彼女から「もうすぐ着きますが、どこにいますか?」のメール。ボクは「交差点のとこでカッコつけて文庫開いてる奴がボクです」と返信した。

 後は待つだけと文庫を開いたものの、ここで急に「約二年ぶりに女とふたりで飲む」という事実を思い出した。正確には「あり」な女とふたりでという意味なのだが、そのブランクにボクは最初のドキドキを感じてしまった。

 銀座の街に20時を告げるチャイムが鳴り響き、彼女は「お待たせしました」と白いフワフワの服を着てやってきた。はっきりいって自分の好みどストライクではないが、その笑顔にボクは完全にやられてしまった。

 冷静を装うとするが、ドギマギしてしまい、視線が泳いでしまう。店をどこにしようかという話になるが、好き嫌いのない彼女はどこでもいいという。子供のころ母親に「晩御飯何がいい?」と訊かれ「何でもいい」と答え、嫌な顔をされたのを思い出した。

 結局はじめに行こうと思っていた店に立ち飲みスペースがあるということで、とりあえず行ってみようということになった。

 移動中、エグザエルの誰彼が来ているビルの前がすごい人混みで、いつものボクであれば一緒の女性を気遣って歩くのだが、舞い上がっているボクは二三回振り返るのみ。手には汗。

 なんとか店にたどり着き、立ち飲みスペースへ。が、またここで思い出す。ボクはいわゆるバル的な店には行ったことがなく、どう立ち居振る舞っていいかがわからない。とりあえずビールを頼んでみたものの、向かいにニコニコと笑顔で立つ彼女の顔がまともに見れない。

「クールになれ」

 ボクの中のハードボイルド番長がタバコを燻らしながらいうが、ボクの頭は全くクールにならない。

 とりあえず仕事のこととか無難な話題をしていたが、彼女がボクの経歴を探る質問をしてきた。

「何年目なんですか?」

 さすがにはぐらかすわけにもいかず、ボクは高校卒業後ふらふらしていたことを話した。「へぇー、すごいですねぇ」と笑顔で聞いている彼女に「何年目なんですか?」と訊き返すと、彼女は大学新卒で入ったとの内容を話してくれた。

 関東にある裕福な家庭に育ち、よい大学を出て、優良企業に勤めている。東北の田舎の中流家庭に育ち、アルファベットのABCから始まるような高校を出て、フリーター生活10年でプチ宝くじが当たってなんとか正社員になった自分とは大違い。ボクの引け目、負い目はこの時点でピークに達していた。

 彼女はボクが沢山本を読んでいることに驚き、興味を持ってくれたが、本(小説)を一冊も読んだことのない有名大学卒と、年三百冊本を読んでいる高卒、どちらが周りに紹介するときプラス査定かといえば明らかに前者だ。一冊も読んだことがないことはさらにプラスに働くのではないだろうか。そんな卑屈な気持ちになっているボクは会話の舵を完全に失い浪漫飛行、目指すは幻のガンダーラ、ってな具合に、答えはないけどやたら面倒くさい話題を彼女に振り続けた。

 それでも彼女はニコニコ。その笑顔はマリアの微笑みだったはずなのに、ボクには「田舎の高卒フリーターバカを笑う顔」に見えていた。

 しかし実際にはそうでなかったと思う。その証拠に「あーあ、このあとどっかのバーで反省会だよ」とボヤいたボクに彼女は「付き合いますよ」と微笑んでいたのだから。

 他にも色々あったけど、結局終始空回りしたまま、ボクが腕時計を見たタイミングで「ではそろそろ」となり、三時間の飲み会は終わった。

 駅までの道でもボクは訳のわからないこといい、本当に最悪の気分になっていた。

 改札の前で「おすすめの本教えてくださいね」といわれたときも、「いや、俺の好きな本は一般ウケしないから」とか余計なことをいってうやむやにした。

 それでも彼女は胸の前で小さくバイバイの手を振り、最後まで笑顔で帰っていった。

 いい子だった。

 一発やれればぐらいに考えていた自分が恥ずかしくなり、こういう状況でAちゃんは上手くやり込まれたのかなとか思ったり、別の女のことを思い出したり、とにかくもう消えてなくなりたい気持ちになってしまった。

 翌日、昨日はありがとうメールを送ったが、返信に「また行きましょう」はなかった。たぶん誘えば行けるとは思うけど。

 まあ、とにかく、社会を渡り歩く中で学歴のなさをこんなにも痛感したのは初めてだった。

 アーア、ベンキョウシトケバヨカッタナー。