日記

40代独男、転落の軌跡

7月27日(金)

 プレミアムフライデーだからというわけではないが、友人と飲みに出かけた。

 店は隣の席との仕切りのない、昭和大衆居酒屋をコンセプトにしたような店で、案内された席の隣には30代後半と前半の上司部下と思われるサラリーマンふたり組、その奥に若い女子ふたり組という席だった。

 基本個室で静かに飲みたい自分がその騒がしい店を選んだのは、お目当の可愛い店員がいるからなのだが、残念なことにその子は出勤日ではなかったらしく、そうなってくると隣の男たちが隣の女子たちに絡んで楽しそうに飲んでいるのがやけに目につく。

 ふたりの女子は渋谷辺りで石を投げればぶつかるような感じの容姿で、男のほうはというと上司は毛むくじゃらのゴリラ、部下のほうは自己採点80点の勘違い野郎といった感じ。勘違い男は女のほうに前のめりになり、度々「ちょっと近いから」と注意を受けていた。

 俺の心の中のドーラが叫ぶ。「すり抜けながら、かっさらえ!」

 「居酒屋でナンパする方法」を知りたい人の参考になれば幸いだが、リスクなくナンパするには「ナンパされた人」をナンパすればいい。下がっているハードルは簡単に飛び越えられる。こちらにもある程度の容姿は必要だが。

 しばらく普通に飲みながらチラチラと女子のほうに視線を送り、目があったら外すというのを繰り返した。

 そして女子がお手洗いに立ったのを見計らって自分も席を立った。用を済ませ扉を開けた洗面台の前にその子がいてこちらの顔を見つけると「あっ」と、頼んでもいないのに話しかけてきた。

「うるさいでしょ。ごめんね」
「いや、別に。楽しそうでいいじゃん」
「全然楽しくないし」
「知り合いなの?」
「知り合いじゃないし。絡まれて困ってるんだよね」
「でも奢ってもらえるんでしょ?」
「奢りとか別にどうでもいいし。ねぇ、助けてよ」

 普通こういう展開になれば「じゃあ他の店に行こう」とか、女子を餌にこちらの飲み代もサラリーマンふたりに払わせるようなことをするのだが、自分ももう若くはないし、ゴリラと勘違い野郎がファイト一発している姿が笑えてきて「頑張って」と席に戻った。

 世の中、本当に上手く出来ていると思う。

 みんながみんな一つの美しさしか認めないなら、命は繋がらない。妥協という後ろ向きなものではなく、個々それぞれにある感覚、多様を受け入れる器、それが命を繋いでいる。

 しかし神に問いたい。なぜ自分の器はこんなに入り口が狭いのか、と。

 選球眼がメジャー級でも、バットを振らなければ草野球でも通用しない?

 いやいや監督、どうやら自分の球はそこそこ通用するみたいです。

 あー、恋がしたい。