余命46年

30代独男、転落の軌跡

初めての歯医者に行ったら不潔で臭くて最悪だった話



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 歯医者選びは簡単だ。

 定期検診で利用している歯医者ではなく別の歯医者に行ってみようと思ったのは、歯列矯正を考えていたからだった。

 定期検診で利用している歯医者は、必要な処置はしてくれるがこちらの質問にはほとんど答えてくれない。「歯並びが悪いのが気になっているんです」と相談すれば「うちは矯正をやっていないので」「矯正は時間がかかります」ぐらいの答えしかくれない。こちらの意図は矯正歯科に行く前に(矯正歯科でセールスを受ける前に)雑談程度でも歯科医師と話してみたかった。

 だから歯石を取るついでに別の「矯正をやっていない歯医者」に行ってみることにしたというわけだ。

 最寄駅の名前と「歯医者」で検索をかけ、口コミサイト(あてにならないことは承知)とホームページを見て、無数にある歯医者の中からある歯科医院に予約を入れた。

 そこに決めたのは口コミで「お話好きの先生で治療方針など事前に話してくれて良い」といった書き込みが多数あり、ホームページ上でもインホームドコンセプト(医者から診察内容の説明を受けた上、患者が治療方針を決める)を重要視しているという点、そして衛生面の徹底をうたっている点だった。

 今にして思えば、せめて病院の外観だけでも直接確認しておけば良かったと思う。

 予約日当日。「新規の方は診察の前に記入していただく書類があるので5分ほど早く来てください」と言われていたので、10分前には医院の前に着いた。

 ホームページに載っていた外観より確実に古臭い建物。二階が住居という「まあ、住宅街にある病院ってこんな感じだよね」というレベル。想定内。それでも中は小綺麗にしているんだろうとドアを開けた。

 ちょうど出入りの医薬品会社のセールマンが来ていたようで、バタバタと受付と奥の部屋とを右往左往する50代ぐらいの白衣を着たオヤジに「ああ、予約の患者さんね。じゃあとりあえずこちらに記入してください」と予診票を渡された。この時点では赤ひげ的な、なんでも自分でやる町の歯医者といった良い印象を持った。

 アンケート的な要素を含む予診票を記入していると奥から30後半から40前半ぐらいの歯科衛生士の女が出てきた。「保険証お願いします」。先ほどのオヤジとは打って変わって事務的でその言葉には熱がない。マスクをしていたので見える部分だけの判断だが、美人に分類される人なのに、目元に感じる疲れが酷い。それが何を意味しているか、そのときはわからなかった。

 住所や勤務先(今考えると記入の必要があったのか? 保険証からでも分かることだからいいのか?)、口腔内で気になっていることなど全てを記入し提出すると、すぐに診察室へ案内された。

 ここで最初の「うわ、この歯医者失敗だ」が出た。診察用の椅子が古い。古いだけならまだしも器具や薬品が並んでいるトレーなどには手書きのネームシールが貼ってあり汚らしく、レントゲンを写すライトボックスには黒いシミが走っている。待合室は静かな音楽が流れ、棚には最新の雑誌なども並んで小綺麗にしてあったのでこれはかなりの予想外だった。

 苦い顔をしながら歯科衛生士にエプロンをつけられていると、あの受付で見たオヤジ医師が「どうもどうも」と入ってきた。受付でははっきりと見ていなかった姿をそこで確認し、二回目の「うわ、この歯医者失敗だ」が出た。

 薄汚れた白衣、首に巻いた汚いタオル、白衣の下のヨレヨレのシャツ。そして歯医者として一番最悪なヤニで汚れきった歯(入れ歯?)、しかも下の歯は黒ずんでいる。そんな、医療に携わっていい人間ではないタイプのオヤジが目の前に座った。

 この時点で「すいません、帰ります」と言えれば良かった。しかしニコニコと人当たりの良さそうな感じ(今思えば飲み屋のオヤジレベル)で挨拶をする様子に、タイミングを完全に失った。

 「うちの病院は何で知りました?」と、アンケート用紙にも書いた内容から問診は始まった。

 インターネットの口コミやホームページを見て来たと答えると、「そうですかそうですか」と「最近はそういった方が多い。でも口コミもあてになりませんからね。誰が書いているかわからないし」とオヤジは汚い歯を見せて笑った。今にして思えばこれはかなりのヒントで、おそらく自分が見た口コミはその病院の関係者、もしくはこのオヤジが書いたんだと思う。

 勤務先の欄を見て「そういうお仕事をされているならお分かりになるでしょうが、最近は病院の経営も厳しくて」とオヤジはボヤキはじめた。

 そう、こちらの勤務先名を見れば、少なくとも医療関係の仕事だということは容易にわかる。業界は微妙に違えど、知っているんだなといったニュアンスが。それなのにそこから最近の歯科業界について(予防歯科などということは今や常識)、インホームドコンセプトを重視している点(ホームページにも書いてある)などなど、医療関係者ではなく素人でも知っているようなどうでもいいうんちくを語り出した。

 これから自分の口の中を見せ、歯石の除去をお願いする身なので、適時相槌を打ち聞いていたのが悪かったのか、このうんちくは途中出入りの業者の来訪のため数十秒のインターバルこそあったが、じつに30分以上続いた。

 我慢して聞いていた間、また気になることが出てきた。それはそのオヤジの口臭。ドブのような臭気が口を開くたびにこちらへと流れてくる。しかも調子にのると唾も飛んでくる。

 「最悪だ、もう帰りたい」と思ったが、ここで心配性の自分のおかしな心理が働く。「ここまで話を聞いておいて、このまま何もされず帰ったら医療行為は行われていないわけで、この時間の請求は1円もできず、個人情報を知られているので、逆恨みされれば何をされるかわからない」といったわけのわからないものだ。

 その後、予診票に書いていた知覚過敏についてのうんちくが10分ほど続き、「他に気になっていることはありますか?」と訊かれ歯列矯正について尋ねると、インターネットレベルの歯列矯正についてのうんちくが更に10分続いた。もちろんその間、口臭も吐き出し続けられていた。

 「そうだな、それじゃあまず歯並びが悪くなっている原因をレントゲン撮って調べてみましょう」

 さすがに意味がわからなかった。今日は歯石を取ってもらいにきたのであって、歯列矯正の雑談はしても相談はしていない。しかもこの歯科医院は歯列矯正をやっていない。それでも「虫歯があるかどうかもわかるから」などごにょごにょと言われながら隣のレントゲン室に案内された。

 ここでもう何度目になるかもわからない最悪。レントゲンの機械から異臭がする。正確にはわからないが「それじゃあここに顎を乗せてこれを噛んで」と言われた噛む部分にかけられている使い捨てカバーのビニール、もしくはその周辺が臭っているようだった。しかもその臭いはオヤジの口臭を濃縮したような臭いで、本当に本当に最悪だった。

 なんとか吐き気を堪え、レントゲン撮影終了。

 結果はすぐにプリントされ、例の薄汚れたライトボックスに貼られた。「親知らずが押している可能性がありますね」という予想通りのレントゲン結果。ここで受付に次の予約患者が来た(音と出たり入ったりする歯科衛生士の様子で分かる)。

 「次の予約の患者さん(常連)、ちょっと待ってね」と待合室方向に断り、慌ただしく診察用の椅子が倒され、口の部分に穴の空いたタオルが顏にかけられ、「歯茎の状態を確認しますね」と2分30秒、「着色汚れが取れますからね」と何かわからない液体(あとで調べると塩の入った液体?)の噴霧に2分30秒、計5分の処置(?)が行われた。ちなみにこの治療に関するインホームドコンセプトなどは一切なかった。何をされたのか、歯石が取れたかどうかもわからない。

 そして今後の治療方針として次回知覚過敏の具体的な対応と歯磨き指導をするということが示され診察が終了した(メインは歯磨き指導とのこと)。

 汚い、臭い、理解できない診察で3000円ぐらいのお金がかかった。

 受付で「次回の予約はいつになさいますか?」と死んだ眼をした歯科衛生士は言った。この女は知っている。ここはこの住宅街に住んでいる老人相手にやっている歯医者で、新規の患者など根付かないことを。不潔な院内、不潔な医師、言葉ばかりのインホームドコンセプトのことを。

 瞬間、怒りがこみ上げ「ふざけるな、誰がこんな汚いところ二度と来るか!」と言ってやりたかったが、やはり逆恨みされる恐怖で「仕事が忙しいので、休みがとれたら予約します」と言って建物を出た。

 振り返った病院の看板には区の「成人歯科検診指定病院」の文字が堂々と掲げられていた。


 この文章はこの出来事の翌日に書いているのだが、まだ鼻にあのオヤジの口臭の記憶が残っていて、レントゲン室を思い出すと吐き気がこみ上げてくるような状態だ。そして怒りは毎時増している。

 処置が適切なのかどうかはわからないが、衛生面のことだけでも保健所に訴えて、成人歯科検診の指定を取り消すよう要請しようと思ったが、どうせ一個人の意見など無視されるだろうし、無駄だからやめた。

 同じく口コミサイトにこのことを書いてやろうと思ったが、どうせあの立派なホームページを作ったエンジニアに消されるんだろうからやめた。

 ではこのブログで実名で晒してやろうかと思ったが、やはり逆恨みが怖いのでやめた。


 不幸中の幸は歯を削るような処置が行われなかったことだ。あの医者なら健康な歯を傷つけることなど朝飯前だろう。虫歯など緊急で行ったのではなくて本当に良かったと思う。

 しかしながら今後歯列矯正を考えているのだが、あの歯医者に行ったことで、ますます病院選びに迷うようになってしまった。


 最初に書いたように歯医者選びは簡単だ。

 でも今回の出来事で「いい歯医者選び」はとても難しいということがわかった。