彼女は相変わらず可愛く、今でも好きだが、あちらに復縁の気はない。
好きな人に会えば幸せな気持ちになるはずなのに、彼女に会うと真冬の気持ちになる。
だから食事の後、街を歩き、カフェでお茶をして、別れて一人になったら、寒くて寒くて凍え死にそうになった。
一人でいたくなかった。
友人のジョンを飲みに誘ったけど予定が合わなかった。
部屋に戻って古いアドレス帳を開いて目に付いた番号を適当に押した。
「はい、もしもし」
「君は誰?」
「は、電話してきたのあんたじゃん。そっちこそ誰?」
電話を切って3分と経たないうちにその番号から着信があったけど無視した。
昔可愛がっていたネコにメールを打った。
返信はなかった。
きっと他の誰かに餌をもらって、新しい名前で呼ばれて、
上等な首輪を付けられて、幸せに暮らしているんだと思った。
それは喜ぶべきことなのに、嫉妬を感じた。
『バッファロー’66」を観た。
20代の眠れない夜は、いつもこの映画を観ていた。
ビリーがファミレスのトイレで「生きていたくない」と言って泣くシーンで
「俺もそうだ」と共感した。
エンディングに流れるYESの『SWEETNESS』の歌詞
きみに一緒にいてほしい
たぶん一緒に来てくれる
おれを置き去りにしない
たぶん一緒に来てくれると思う
には共感できなかった。
偉そうに人間不信を気取ってみたところで、
自分のそれはただ単に好きな女に愛されないことを妬んでいるだけだと思った。
棚にしまってあった消毒をできそうなアルコール度数の酒を水みたに飲んだ。
気づいたら朝になっていた。
酒瓶は空っぽになっていた。
鏡を見ると髪の毛が無造作に逆立っていた。
これがドン・キングの言っていた「神の啓示」なのかと思った。
シャワーを浴びてレイラを探しに街に出ようと思う。