日記

30代独男、転落の軌跡

10月12日(日)

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 自分の働く会社では、年に何度か、全国各地で会を催すことがあり、その受付業務のために、派遣の人間を雇うことがあります。
 
 先日も北の地で催しがあり、現地の、若い女子三名を雇いました。
 
 三人は店売りの雑紙に例えるなら、ノンノ、キャンキャン、群像といった感じで、数名いた自分以外の社員の人たちは「みんな可愛い」と嘘偽りなく、陰でささやいていました。
 
 しかし自分にはわからなかったのです。
 
 それは決して彼女たち三人が不細工だったわけではなく、自分からしてみれば可愛いと形容されるほど可愛らしくもない彼女たちを「可愛い」とお世辞でもなくいう社員の人たちの美的感覚がわからなかったのです。
 
 とりわけ上司は群像を気に入ったようで、三十を越えても未だ独り身である自分のことを群像の彼氏にと薦めるのでした。「とりあえず名刺を渡しなさい」という言葉に促され、自分はノンノとキャンキャンが席を外しているときに一枚、群像に名刺を渡しました。
 
 会が始まり、しばらくして落ち着き、役目として自分は受付の様子を見に行きました。
 
 出席者の状況など確認していると、ノンノが「毎年こういった会を開いているんですか」と尋ねてきたので、自分はにこやかに応えました。するとその流れでいくつか質問をされ、最後に「会社はどこにあるんですか」と訊かれました。しかし自分はその質問に答えることが出来ませんでした。
 
 その質問に答えたのは群像でした。先ほど自分が渡した名刺にある住所を答えたのです。自分はなんとなく気まずくなって「さっき渡したんですよ」と訊かれてもいない空の問いに答え、頭をかきました。
 
「わたしもらってないんですけど〜」
 
 口を開いたのは会話に参加していなかったキャンキャンでした。自分が眼を向けると、下唇を上唇で隠すように乾きを潤し、天然ではない、人口の睫毛をばたばたと羽ばたかせ、上目遣いに自分を見ていました。自分はそこに良くいえば求められてきた女の自信、悪くいえば淫売婦の傲慢を感じました。
 
 自分は「ああ、すいません、今お渡しします」といって、ノンノには名刺入れの一番上の名刺を、キャンキャンには名刺入れの一番下の名刺を渡しました。キャンキャンはその意味をわかったのか、歯を見せずにニッと笑い、「連絡しますね」と言いました。
 
 会も終わり、帰りの電車の中で携帯がメールの着信を知らせました。ポケットから仕事用の携帯ではなく、プライベート用の携帯を出すと、そこに知らない番号からショートメールが届いていました。液晶の画面にはお疲れさまでしたという当たり障りのない文面があり、女の余裕がうかがえました。
 
 にわかに興が冷めました。
 
 自分が可愛いと思える女から同じ匂いを感じても、自分はそれをいい匂いと感じるのでしょう。しかし自分が普通と思っている女から感じるその匂いは、鼻をつく匂いでしかないのでした。
 
 嗚呼、審美とは罪なりや。
 
 もし人間を創りし者がいるならば、なぜその者は自分の審美を高いものにしたのでしょう。低くとはいいませんが、せめて多様を受け入れられる広いものにしてくれていたならば、自分はもっと愉しめたに違いないのです。
 
 自分は試しにホテルまでの帰り道、すれ違う人たちの顔をひとつ残らず見ました。でもやはりただのひとりも、自分にとって美しいといえる顔に出会うことはありませんでした。ただのひとりも。
 
 審美とは罪なりや。
 
 ホテルに戻り、テレビをつけると野球中継がやっていました。四番バッターが、相手投手が明らかに外角に外したボールを、ヘンテコな崩れた体勢からバットを振り、スタンドに運んでいました。
 
 自分は「打ちやすいボールだけをスタンドに運ぶだけではホームランバッターにはなれない」という野球解説者の言葉を聞きながら、独りで可笑しくなって、うふふふと笑ってしまいました。
 
 自分は先日、三十五になりました。年寄りと飲むとまだまだ若いと言われます。